昨年の秋に3Dプリンタを買ったので、その経緯と3Dプリンタに入門して学んだことを記します。

作りたいものがあって、3Dプリンタの印刷サービスを検討していたが高すぎたのが事の発端です。 作りたいものの寸法が大きかったため依頼すると2万円くらいするとわかり、更に安価な3Dプリンタ本体が2-3万円くらいで入手できることがわかり、これは試してみてもいいのではという気持ちになりました。1

3Dプリンタを選ぶ

家庭用3Dプリンタには光造形方式と熱積層方式があり、今回は熱積層方式のものを購入しました。前者は印刷可能サイズが小さいが精巧で模型などに向き、前者は印刷可能サイズが大きいが精巧さに劣るのでDIYなどに向くという違いがあります。 精巧さで劣ると言っても結構いい感じに作れます。(後述の写真を参考に)

熱積層方式のプリンタの中でも安価な家庭モデルでメジャーなものとして、Ender 3 Pro、Anycubic MEGA S、Flashforge 3、といった機種が挙げられます。このなかでも前者のほうが安価、印刷可能サイズが大きい、カスタマイズ幅2が広い、組み立てが大変、といった特徴があるようです。

印刷したいもののサイズと価格面からFlashForge 3が消え、組み立て部位が多いと精度が担保しづらいのではないかという不安からEnder 3 Proを避けることとし、Anycubic Mega S を選びました。 昨年と比較してセール含め1.5万円くらい値段が下がっているらしいことも、この選択を後押ししました。

Anycubic Mega S の積層可能範囲は 210mm x 210mm x 205mm で、そこそこ大きいと思います。 大きいものを印刷すると結構時間がかかるので、この範囲に収まらないものは組み立て式にしたり3Dプリンタの印刷物は一部の部分のみに使うなど、工夫してものをつくるとよさそうです。

Anycubic Mega S

フィラメント

熱積層型の3Dプリンタでは、樹脂を熱で溶かしながら射出して印刷します。その樹脂がフィラメントです。

フィラメントを選ぶ上での軸はいくつかあるようですが、最初でよくわからないのと失敗したくないのでなるべくメジャーっぽいもの、PLAの太さ1.75mmで黒1kg、安すぎず品質管理されてそうなものを選びました。 (特に問題なく印刷できたので、使い切った後も同じものを買い足しました。 https://www.amazon.co.jp/gp/product/B084S9NP2T/ref=ppx_yo_dt_b_asin_title_o09_s00?ie=UTF8&psc=1)

フィラメントは材質がいくつか選べるようですが、PLAやPLA+が簡単に印刷できます。この材質は硬く印刷後の整形に向きません。 強度の高く加工しやすいABSなどを選ぶ手もありますが、こちらは熱変化による収縮が大きく、印刷が失敗する可能性が上がるので最初は選ばないほうがよいようです。 フィラメントの量は 1kgや3kgが一般的なようです。3Dプリンタによってはあまり大きすぎるリールはフィラメント台に置けない可能性があるので、自分の3Dプリンタの機種で問題ないかを確認しておくとよいでしょう。 フィラメントは品質もある程度気にする必要があるらしく、あまりに安くて質の悪いものだと、フィラメントの太さが均一でなく、ノズルに詰まって印刷に失敗したり印刷が汚くなることがあるらしいです。

慣れてきたらここら辺を変えてコストを抑えたり印刷物の特徴に合わせた材質にしたりということができるようです。

ネット上では一部Anycubic Mega Sにはフィラメントが1kg付属すると書いてあるレビューもありましたが、私の場合は数十gのおまけだけで付属しませんでした。 同じ機種を買われる方は特に、最初からフィラメントも同時購入するとよさそうです。

組み立て

Anycubic Mega Sはゆっくりやっても数十分で組み立てることができます。 台座に印刷ヘッドを含む上部を差し込んで数カ所ネジ止めし、フィラメント台もネジ止めします。

Anycubic Mega Sが届いた時の様子 Anycubic Mega Sは下部と上部を組み立てるだけ

印刷台の調整

熱積層式の3Dプリンタは、印刷前に印刷台とヘッドの間の間隔が一定になるよう、印刷台を調整する必要があります。

  1. ヘッドと印刷台を傷つけないようにA4のコピー用紙を印刷台に置く
  2. 電源を入れる
  3. 念の為モータに電流が流れていない状態にする。タッチパネルから、Setup > Motor (off) > Done!と出るとよい
  4. 手動でヘッドと台座を動かして、調整場所まで移動する。左手前側の角に近いところで、ヘッド先が下がったときに台座の平面からはみ出ない位置の範囲で動かす。
  5. タッチパネルから、Tools > Home > Home Z とするとヘッドが自動で下まで下がる
  6. 印刷台下の手回しネジを回して高さを調整する。コピー用紙を動かそうとすると少し抵抗があるが力を入れれば動かせるくらいが良い。どのくらいの力で動くかを手で大体覚えておく。紙の動かす方向は水平の一方向にまっすぐもありだし水平のヘッドを中心とした回転方向に引っ張ってみるのもよい
  7. 左手前が調整できたら、ヘッドを手動で動かして右手前、右後ろ、左後ろも同様に調整する。終わったらまた右手前、左手前、、と納得行くまで繰り返す。(1周やって戻ってくるだけと紙がスルスル動く状態になっていたりする。)最後に印刷台中央のヘッドとの間隔が同様であることを確認する。
  8. タッチパネルから、Tools > Axis > 10 (+Z) を10回押すとヘッドが上がる

ひとまず、印刷を終わるごとにやっています。 Youtuberのイチケンさんの動画ではそんなに頻繁にやらなくても良いと語られているので、それほどずれないとわかったらやらなくて良いかもしれません。

ちなみにこの動画、とてもよくできていて3Dプリンタを買う前にイメージを掴むのに大変役立ちました。

印刷してみる

印刷のためには以下の2つのソフトが必要になります

  • 3D CAD

印刷物の3Dデータを作成するのに必要です。インターネットから印刷データをダウンロードする場合は不要です。Fusion360というソフトが非商用だと無料に使えるので、ひとまずこれを試してみるのが良いと思います。4

3D CADはあまり使ったことないのですが、基本は平面を作って引き伸ばすという方法を繰り返せばそこそこの物が作れるようです。スケッチを選んで、面を選んで、面上に図を書いて、引き伸ばす。これをこれをくり返せば結構いろいろな図形を作ることができます。 あわせてフィレット (角を削って曲面にする) と回転引き伸ばしを組み合わせて、直線方向以外の整形も行えますが、これらの処理には注意が必要です。 私が3Dプリンタを使うとき、印刷物して実物を見てからモデルを調整するということが何度も発生しておりこういうときにフィレットされていると面を引き伸ばすことが難しくなります。フィレットしてない版を保存しておき、実際にどこかで利用されるときは毎度フィレットを行う、という方法を取れば、手戻りは少なくなりそうです。

Fusion360には保存時に同一ファイル内でバージョン管理ができ、バージョンごとにに名前をつけられるなどの機能があるのですが、試行錯誤して作るデジタルデータはgitで管理したくなるなという気持ちになりました。

  • スライサー

3Dモデルからgcode (3Dプリンタが読み込める形式) への変換に必要です Ultimaker Cura というソフトを使っています。 3D CADからSTL形式で出力したモデルを、Ultimaker Curaで、印刷設定をしてgcodeで出力します。 印刷設定としては、 in fill (印刷時、内部の充填率を決められる。25〜30%くらいがよく使われているらしい)、印刷方向、サポート材の有無などが決められます。

gcode形式のファイルができたら、SDカードへ保存します。 gcodeファイルをSDカードに入れてAnyvubic Mega Sに差し込み、タッチパネルからファイルを選びます。

最初は付属のSDカードに入っていたフクロウを印刷してみましたが、 大きさが5cmくらい、1時間半程度で印刷が終わりました。 フィギュアを作る予定ではないので十分満足できる精度だと思います。 2.5万円ということでもしかしたらまともに使い物にならないかもと期待していなかったのですが、全然そんなことなく、色々なことに活用できそうです。

Anycubic Mega Sで印刷したフクロウ

印刷のコツとして、以下のような点がありそうです。

  • 積層方向を考慮する ... 積層方向によって、縮みや歪みや強度に差があるので、3Dモデルの設計だけでなく印刷方向の決定も印刷の成功に関わってきます。
  • 印刷後は台座が冷えるのを少し待つと良い ... Anycubicの台座は特殊な素材が使われているようで、プラットフォームが熱い間 (印刷中) はずれないように吸着し、印刷後冷めると剥がれやすくなります。印刷後は焦ってすぐ剥がすよりも少し待った方が、台座を傷つけずに済みます。
  • 大きな部品は分割する ... 大きな部品は印刷に時間がかかるので待ち時間が増えます。それだけでなく、トライアンドエラーをするのが億劫になります。組み立て式にしたり一部に切り出したりすると試作しやすく、良いものが作りやすいと思います。

感想

私個人としては買ってよかったです。 印刷したいものが安価に印刷できて満足でした。 安価に販売されているので、買ってみたが全然使い物にならなかったなどということも想像してましたが、予想以上に"普通に"使えました。

しかしながらモデルを作って印刷して改良して、を繰り返すのはそこそこ時間がかかるので、そういった手間を覚悟で楽しむものだなあという感じです。 (3D CADへの習熟度が上がればもっと気軽につくっていけるのかもしれません)

Footnotes

  1. 3Dプリンタはもっと高価なものだと思っていたのに随分手頃になりました。 例えば2012年頃の動画に出てくる3Dプリンタは積層間隔が0.3mm、自分で加工しながらMDF材からなるたくさんのパーツを組み立てています。(たしか当時リアルタイムで見ていた動画です。ニコニコ動画の #ニコニコ技術部 タグをみてワクワクしていた頃です。) 私の買った3Dプリンタは金属製で主に3つのパーツをネジ止めするだけでよいものです。それが2.5万円ですから、低廉化が進んでいますね。

  2. 3Dプリンタはカスタマイズする文化があるようで、あとからパーツを交換して静音化や印刷精度の向上などをはかる事ができるようです。購入する前は興味がなかったのですがいざ届いてみるとちょっと静音化に手を出したくなったりします。 動作音 (とくに機械動作音ではなくモータドライバの電子音) がそこそこな音で、同じ部屋で寝るのは難しいレベルの騒音でした。

  3. FlashForgeは印刷部分が囲われていてかっこいいですが、これは格好良さではなく庫内の温度を高く保つためなんだそうです。ABSで印刷するときはこういった囲いがあるほうが印刷に成功しやすいらしい。

  4. M1 Macbook Airだとデュアルディスプレイにしたときに小ウィンドウの表示がバグっている気がする。